本日の統合TVは、2017年5月27-29日に開催された
2017年国立遺伝学研究所 国際シンポジウム DDBJ 30周年記念シンポジウム ゲノムでわかる生命・環境・進化から、長谷川 真理子 国立大学法人 総合研究大学院大学 学長 による「生物学の統合的理論としての進化」をお送りします。約27分です。
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生命現象には、遺伝子のレベルから、細胞、器官、個体、個体群、群集と階層性がある。それらの知識をすべて結びつけて、生命現象を総合的に理解する枠組みが進化である。一方、1973年のノーベル医学・生理学賞受賞者の一人であるニコ・ティンバーゲンが述べたように、生物の形質が「なぜ」あるのかという問いに対しては、1)その形質はどのような仕組みで存在しているのか(至近要因)、2)どんな機能を持っているから存在しているのか(究極要因)、3)どのようにして発達してきたのか(発達要因)、4)どのような祖先形質から進化してきたのか(系統進化要因)という、4つの異なる研究アプローチがある。これらはそれぞれ別に研究して独立に答えることができるが、4つを統合して意味のある答えにするのも、進化の考えである。
進化とは、生物の持つ形質が、世代を経るとともに変化していくことである。もっとも狭い意味では、集団中の遺伝子頻度が世代を越えて変化していくことであるが、細胞、器官、個体のレベルに見られる形質が世代を越えて変化していれば、それは進化の結果であると考えられる。遺伝子レベルでの進化が解明されていないからと言って、進化を考えることができないわけではない。それどころか、さまざまな表現型形質が進化する条件について広く調査し、考えることによって、新たな疑問や課題が発見されることは多い。
淘汰が起こるレベルについて、かつては、「種の保存のため」など、集団レベルでの利益を当然の前提とする議論が多かった。それは、1970年代に「群淘汰の誤り」として批判され、ドーキンスを初めとする遺伝子淘汰の理論へと転換した。以後の研究から、遺伝子どうし、雄と雌、個体と集団など、さまざまな進化的葛藤が存在することがわかってきた。また、人間が生み出す技術や考えが世代を経てどのように変遷していくのかを、生物進化の考えをもとに考察する、文化進化の考えも発展してきている。