本日の統合TVは、2017年5月27-29日に開催された
2017年国立遺伝学研究所 国際シンポジウム DDBJ 30周年記念シンポジウム ゲノムでわかる生命・環境・進化から、榊 佳之 東京大学 名誉教授 / 学校法人静岡雙葉学園 理事長 による「ヒトゲノム計画: その歴史とインパクト」をお送りします。約40分です。
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ワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見は遺伝情報がDNAを構成する4種の塩基(文字)による暗号(文)として書き込まれていることを明らかにし、分子生物学の誕生につながり、30億塩基からなるヒトの全遺伝情報(ゲノム)の全解読へとつながった。ヒトゲノム全解読を目指したヒトゲノム計画は、しかし、分子生物学の単なる延長や拡大ではなかった。そこには生物学や医学に変革をもたらす様々な革新的な試み・挑戦があった。中でも特記すべきは以下の3つの挑戦である。第1は、医学・生物学に工学的センスを導入したDNA配列決定自動化装置(DNAシーケンサー)の開発への挑戦である。そこでは日本の研究者が先導的役割を果たした。第2は医学・生物学に「オープン イノベーション」の考え方を導入したことである。ヒトゲノム配列決定を進める国際チームは医学やヒト生物学研究の発展のための共通基盤を構築することを目指し、生産されたシーケンスデータを直ちに無条件、無償で公開するという「バミューダ原則」に合意、実施した。第3は生物情報を解析するバイオインフォマティクス(生物情報科学)という学問分野を確立したことである。生物情報科学は高性能DNAシーケンサーと高速大型計算機の発達を背景に、大量データを基に生命現象を解明する「データ主導生物学」へと展開した。そこではDNAデータベースが不可欠の役割を担っている。
ヒトゲノム計画が生み出したヒトゲノム全配列はヒト生物学、医学のゴールド・スタンダードとなり、新しい時代をもたらした。超高速DNAシーケンサーの驚異的な進歩を背景とした大規模集団のゲノム配列解析を通して極めて多数の疾患に関連する多様な遺伝子タイプが発見され、個別化医療というゲノム情報に基づく新しい医療の流れを生み出した。また、様々な民族のゲノム情報は人類進化への理解を一段と深いものとした。この他「エピゲノム」などゲノム研究の最近の進歩について考察する。